
近年、情報通信機器は、その技術の飛躍的な進展とともに、急速な普及が進んでいます。情報通信機器を用いた診療(オンライン診療)についてはこれまで無診察治療等を禁じている医師法第20条との絡みもあり慎重に取り扱われてきましたが、コロナ渦においての感染拡大防止や、医師の不足する地域においても有用なものと考えられ、ガイドラインの改訂等が進みました。
そんな中、一部の団体からオンライン診療を使った、はりきゅう・あん摩マッサージの同意書発行のスキーム(同意書支援サービス等)が施術者側に持ち掛けられ、そのオンライン診療で発行された同意書に対する施術が、大量に返戻・不支給となるようなケースが多発しています。
一部の団体より持ちかけられるスキームの具体的な例としては、LINE等のSNSを利用して医師がオンライン診療を行い、それに基づいてはりきゅう・あん摩マッサージの同意書を発行する。そしてそのIDやQRコード等の登録料やシステム利用料として施術者側に金銭的負担を求める、といったものです。
今回は、これら同意書支援サービス等による「同意書発行の問題点」について解説していきたいと思います。これらの問題点は、大きく分けて3点あると考えます。
①受領委任の取扱規程に反している可能性
受領委任の取扱規定においては「施術所が、医療機関、医師又はその関係者等に対して金品等を提供し、療養費の請求に必要となる留意事項に基づく同意書又は診断書(以下「同意書等」という。)の交付を受け、その結果なされた施術については療養費支給の対象外とすること」とされています。
団体の言い分としては、施術者側から団体への金銭の支払いはあくまでシステム利用料に対するものであり、はりきゅう・あん摩マッサージの同意書発行に対する金銭の提供ではない、ということになりますが、こちらは客観的に見てもかなり苦しく支給決定の最終的な判断を行う保険者の立場からすると納得がいくものではないでしょう。
②オンライン診療そのものの主旨に反している可能性
オンライン診療では、医師が、患者から心身の状態に関する適切な情報を得るために、日頃より直接の対面診療を重ねるなど、医師-患者間で信頼関係を築いておく必要があることから、初診については「かかりつけの医師」が行うことが原則となっています。
例外として、医学的情報が十分に把握でき、患者の症状と合わせて医師が可能と判断した場合にもオンライン診療を実施できる、とされていますが、オンライン診療の開始後であっても、オンライン診療の実施が望ましくないと判断される場合については対面による診療を行うべきである、とされています。
得られる情報が視覚及び聴覚に限られ、可能な限り疾病の見落としや誤診を防ぐ必要がある中で、同意書支援サービス等のように同意書の発行を受けるためだけにオンライン診療を利用するようなやり方は、その主旨に反する可能性が高いでしょう。コロナの感染拡大を受けてオンライン診療自体は緩和されてきている状況ですが、それをもとに、はりきゅう・あん摩マッサージの同意書発行、というのは話を飛躍させすぎている印象です。
③保険医による適当な治療手段のないものであると認められない可能性
はりきゅう療養費の支給対象となる疾病は、慢性病(慢性的な疼痛を主訴とする疾病)であって保険医による適当な治療手段のないものです。6疾患については、保険医より同意書の交付を受けて施術を受けた場合は、保険者は保険医による適当な治療手段のないものとし療養費の支給対象として差し支えないものとされています。
ただしオンライン診療をもって診察を受けた患者が、保険医による適当な治療手段のないものであるかどうかは、保険者が支給要件を個別に判断し、支給の適否を決定することとなります。現時点で療養費の算定基準上にオンライン診療に関する想定は存在しないため、返戻や不支給となってしまう可能性が高いでしょう。
実際に不支給となっている事例は上記3点が問題視されていると考えられ、仮に今まで返戻等になっていなかったとすれば、それは『保険者側でチェックされていない(すり抜けた)だけ』だと考えられます。
また、保険者に事前確認をしてOKを出したとしても、その担当者が療養費に精通しておらず、上記のような問題点を理解しないまま安易に返答しているケースが散見され、今後担当者が理解した(もしくは変わった)段階でNGとなるケースも出てくるでしょう。
制度を正しく理解している保険者は「オンライン診療により交付された同意書(診断書)は認められません」と明確に記載しています。
協会けんぽ周知資料(2ページ目の右上「医師の同意書(診断書)」欄の説明文参照)→こちらをクリックして確認
いずれにせよオンライン診療で発行された同意書であることは今から変えようがなく、返戻になった場合は再提出が難しくなります。そして不支給になった場合には、支給済みの申請書も含めて過去に遡って不支給とされるところが療養費の恐ろしいところです。
不支給となったその施術料金は、その全額を患者に対して求めることになります。しかし同意書支援サービス等の利用を勧めた施術者にとって、実際に施術料金を患者に求めることはハードルが高いため、施術者側が負担する(請求を諦める)ことになるケースが多いのではないかと思われます。
このように同意書支援サービス等を利用する上でのリスクはほぼすべて施術者側が負うことになりますので、安易に導入することは避けるべきです。
万一導入してしまった場合でも、出来る限り早く別の医師による対面診療によって同意書を取得し直すことにより、将来の損害リスクを下げることができます。