「第32回柔整・第35回あはき療養費検討専門委員会」について

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2026-03-02

令和8年(2026年)1月30日(金)、全国都市会館にて「第32回柔道整復療養費検討専門委員会」および「第35回あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会」が開催されました。今回は私も実際に会場に足を運び、議論の行方を傍聴
してまいりました。

今回の委員会は、令和8年度の療養費改定に向けた「基本的な考え方(案)」が提示される、いわば次期改定のキックオフと
なる極めて重要な会議です。
会場では、保険者側から提示された衝撃的な調査データに対し、施術者側委員が激しく反論する場面もあり、緊迫した空気に包まれていました。そこで得られた議論の詳細を、柔整・あはきの順に分けてご報告いたします。

まずは柔道整復の議論についてですが、一言で申し上げると「数値で包囲網を敷く保険者と、正当な対価を訴える施術者」という対立構図が鮮明でした。
その中でも最大の焦点となったのは「患者ごとの償還払いに変更できる事例の追加」、すなわち「部位転がし(負傷部位を次々と変えて施術を継続する行為)」対策です。

健康保険組合連合会(健保連)の委員より、約17万人の受療者を対象とした詳細なデータ分析が提示されました。
資料では、1年間にわたり毎月通院している患者(約2,000人)のうち、実に約72%が「初検日」を年に3〜6回も持っている
という実態が浮き彫りとなりました。
特に問題視されたのは、「3ヶ月または4ヶ月ごとに治癒し、その翌月に新たな部位を負傷する」という極めて不自然な受療サイクルです。

実際のデータでは、初検日が月初(1日〜6日)に集中する一方で、施術終了日が月末に集中している傾向が示されました。
これは、捻挫・打撲等で3ヶ月を超えた際に義務付けられている「長期施術継続理由書」の添付を回避するための意図的な
請求ではないかと、保険者側から厳しく断じられました。
保険者側は、この分析結果に基づき「年間通算6ヶ月以上かつ6部位以上の施術」を行っている患者を、保険者の判断で償還払いに変更できる類型に追加すべきだと強く主張しています。これに対し施術者側委員からは、現在の極めて厳しい経営
実態を背景に、具体的な算定基準の引き上げ要望が噴出しました。

令和8年度診療報酬改定における医科の改定率(賃上げ分等を含むプラス3.09%)を引き合いに出し、療養費においても賃上げや物価高騰への対応として同等の配慮を求める声が上がっています。
具体的な要望として、初検料を現行の1,550円から1,600円へ 、電療料は電気代高騰を反映させて現行の33円から40円へと、それぞれ引き上げるよう求めました。

また、現在は月1回に制限されている再検料のあり方についても、「患者の病態変化や重篤な疾患の兆候(レッドフラッグ)を見逃さないために不可欠な管理業務である」として、月3回程度の算定を認めるべきとの主張がなされています。
さらに、令和7年度の調査では、有効回答のあった施術所のうち95.4%がすでに明細書発行機能付きレセプトコンピュータ(レセコン)を設置していることが明らかとなりました。
これを受け、厚労省は義務化対象施術所の範囲をさらに拡大する方針です。

議論の中では、患者の求めに応じて1ヶ月分をまとめて交付できる現行の特例を廃止し、支払いごとの「毎回交付」を原則化すべきという保険者側の意見に対し、施術者側からは業務負担増に見合う加算額(現在は月1回10円)の引き上げを求める要望が出されました。

次にあん摩マッサージ指圧、はり・きゅう(あはき)の議論ですが、こちらでは「不適切な訪問施術への厳罰化と包括化の波」が論じられています。特に「訪問施術」の適正化を巡って、具体的な不正スキームに対する踏み込んだ発言が相次ぎました。

保険者側の委員からは、介護施設と施術所が一体となった不適切な運営実態について、極めて具体的な指摘がありました。
一部の事業者において、施設が患者を紹介する見返りに、施術所側から患者1人あたり月額5,000円程度の「紹介料」や「事務手数料」名目でキックバック(マージン)を支払っている疑いがあると言及されました。
また、医師が医学的必要性を精査せず、施術所側の依頼や患者の「リラクゼーション目的」の要望に応じて、安易に同意書を発行しているケースも問題視されています。こうした不適切な頻回施術を抑制するため、回数が増えるほど料金を下げる「低減制」の導入や、不適切な事例を狙い撃ちにする「個別償還払い」の適用など、頻回施術を抑制するための施策が急務であるとの認識が示されています。

一方、あはきでも同様に、温罨法・電療料の引き上げや、はり・きゅうの初検料等の引き上げが議論されています。
特に在宅施術が多いあはきでは、移動にかかる燃料費高騰の影響が甚大であるとして、訪問施術料1、2、3の各区分における単価設定の見直しを求める声も上がりました。
あはきにおいても柔道整復の検討状況を参考に、オンライン請求導入に向けた課題整理が開始されます。
ここでの最大の論点は、視覚障害を持つ施術者が多いという業界特有の事情です。
音声読み上げソフトへの対応や入力負荷の軽減など、いかに「合理的配慮」を制度として担保できるかが議論の焦点となるでしょう。

今回の委員会を傍聴して私が最も強く感じたのは、感覚による議論から、データによる検証への完全な移行です。
これまで「部位転がし」や「不適切な訪問」は、噂レベルや一部の極端な事例として語られることが多かったのですが、
今回は保険者側が膨大なレセプトデータを分析し、誰が見ても不自然な「パターン」を数値化して突きつけてきました。
これは、単にルールを守れば良いという段階から、その施術内容が医学的に妥当であることを、客観的なデータで証明できるか、が問われる時代に入ったことを意味します。
議論の行方は予断を許しませんが、令和8年度改定に向けて、会員の先生方には以下の点をご留意いただきたいと思います。

特定の部位(腰部や頸部)が数ヶ月サイクルで治癒と負傷を繰り返すパターンは、今後システムによる自動抽出の対象となっていくでしょう。柔整の先生においては、日々の施術録において、なぜその部位にその日から施術が必要だったのかという「負傷原因と転帰の整合性」や医学的根拠を、これまで以上に明確に残しておくことが最大の自衛策となります。

あはきの先生においては、医師との連携をこれまで以上に強化し、訪問施術の同意プロセスを再確認してください。
単なる慰安ではなく「治療上の必要性」に基づいた同意であることを確認し、適切に施術報告書を作成・交付することが
重要です。

改定の基本的な考え方が示された今、議論は詳細な単価設定やルールの細則へと進みます。
アトラ請求サービスでは、引き続き現場の生の議論を追い続け、先生方にフィードバックしてまいります。
実際の改定までにはまだ少し時間がありますが、今から自院の請求傾向を客観的に見直し、適切な運用を徹底しておくことが、先生方の施術所と患者様を守ることに直結します。
不当な規制には私たちも共に声を上げ、真面目に地域医療を支える先生方が正当に報われる制度となるよう、全力を尽くしてまいります。

今後も最新情報が入りましたら速やかに共有いたします。
引き続きよろしくお願いいたします。