近年、柔道整復業界の裏側において、静かではあるものの確実に変化が進行しています。
保険請求業務に関わる請求団体や、業務を支えるレセプトコンピュータ(以下、レセコン)メーカー、そしてそれらを運営する事業主体において「世代交代」の兆しが見え始めています。
これは単なる人事上の移行にとどまらず、業界の構造や価値観そのものの転換を示唆する変化であり、現場で施術を行う
柔道整復師にとっても、無関係ではいられない重要な局面と言えるでしょう。
多くの団体やシステム会社において、従来は創業者世代や長年業界に携わってきたベテラン層が経営の中枢を担ってきました。しかし、ここ数年で、40~50代の中堅層が運営の中心に就く事例が増えつつあります。
この背景には、創業者世代の高齢化はもちろん、以下のような業界構造の変化が関係しています。
・療養費請求の制度改革(オンライン化・療養費を施術者に直接支払う仕組みなど)
・保険者による審査の厳格化
・療養費の漸減に伴う事業収益モデルの見直し
・クラウド化・API活用などのテクノロジー変革
かつてのような「現場経験第一」「紙と手作業が前提」という価値観から、論理性・システム理解・データ連携といった新しい視点が必要とされる中で、相対的に新世代のリーダーが求められる環境が整ってきたとも言えるでしょう。
世代交代によって、請求団体・レセコン企業の文化や提供価値にも変化が見られるようになっており、いくつか例を挙げると以下のような傾向がみられます。
・オンライン請求やペーパーレス対応への迅速な推進
・利用者目線に立ったUI・UX改善への注力
・SNSやYouTubeを活用した広報・情報提供の活性化
・全国横断的なデータ共有や、施術所経営支援への志向
中には、業界出身ではないビジネス経験者やIT企業からの転職者が幹部として加わる例も見られ、柔道整復業界が「専門職の世界」から「サービス産業の一端」へと変わりつつあることを示しているようにも映ります。
現場で施術にあたる皆さんにとって、このような業界構造の変化は、ある日突然起こるものではありません。
しかし、確実に少しずつ進行しており、気づかないうちに「知らなかったでは済まされない」局面を迎えることもあり得ます。
今後、保険請求に必要な手続きやシステムの変更が行われる際、それが「現場の意見を聞かないトップダウン」で実施されるのか、それとも「現場との対話を重視したボトムアップ」で運用されるのかは、新しい世代の運営方針に大きく依存するでしょう。
したがって、現場を担う柔道整復師もまた、変化をただ受け入れるのではなく、「変化の担い手」としてどう関わるかを主体的に考えることが求められています。
業界の変化に対して、「自分には関係がない」「どうせ上が決めることだ」と受け身で構えるのは簡単です。
しかし、その「上」が静かに変わりつつある今こそ、情報に目を向け、小さな声でも届ける努力をしていく価値があります。そして、次に業界を支えていくのは、自分自身かもしれません。
世代交代は、単に「古い人が退くこと」ではなく、「次の時代のやり方に適応し、共に育てていくプロセス」である――。
そんな意識を持って、日々の臨床と業務にあたっていただければ幸いです。