
今回は、接骨院・鍼灸院を取り巻く経営環境の変化と、これからの時代に求められる院のあり方についてお話ししたいと思います。
近年、物価や人件費の上昇、競合店舗の増加など、施術所の経営を取り巻く環境は厳しさを増しています。
東京商工リサーチが公表した2025年度の「療術業」倒産動向によると、2025年度の倒産件数は108件となり、過去30年間で最多を更新しました。
さらに、2026年1月から7月までの倒産件数も68件に達し、前年同期を7.9%上回るとともに、同期間としては過去15年間で最多となっています。これらの統計でいう「療術業」には、接骨院や鍼灸院なども含まれており、業界を取り巻く厳しい経営環境を示す一つの指標となっています。
倒産の背景には、売上不振に加え、人件費や光熱費などの運営コストの上昇、低価格のリラクゼーション店との競争激化などがあります。顧客を獲得するために価格を下げれば利益が圧迫され、かといって値上げをすれば患者様が離れてしまうのではないかという不安もある。こうしたジレンマを抱える先生方も少なくないのではないでしょうか。
また、業界の供給環境にも変化が見られます。
厚生労働省の「令和6年衛生行政報告例」によると、2024年末時点の就業柔道整復師数は78,666人で、2022年末と比較して1.3%増加しています。一方、柔道整復の施術所数は50,924か所で、2年前からわずか8か所の増加にとどまりました。施術者が増える一方、施術所の数はほぼ横ばいで推移しているのです。
こうした数字から見えてくるのは、単に院を開業し、施術を提供しているだけでは、安定した経営を続けることが難しくなっているという現実です。価格や立地だけで選ばれるのではなく、「この院だから通いたい」「この先生に相談したい」と思っていただける独自の価値を持つことが、これまで以上に重要になっています。
では、これからの接骨院は、どのような価値を提供していけばよいのでしょうか。
私は、その一つの答えが、従来の施術に加え、患者様の「睡眠」「食事」「運動」という日常生活の基本にまで目を向け、健康づくりを継続的に支援することにあると考えています。
これまで接骨院は、腰や肩、膝などに痛みや不調が生じたときに訪れる場所というイメージが強かったと思います。
もちろん、外傷に対する適切な施術や、身体の不調に向き合う専門性は、これからも接骨院の重要な役割です。
しかし、患者様が抱える悩みは、痛みだけに限りません。疲れが取れない、よく眠れない、体力が落ちてきた、以前より身体が動かしにくくなった、年齢を重ねても元気に過ごしたい。こうした日常的な悩みや健康への願いも、地域の方々が抱える大切なニーズです。
睡眠、食事、運動は、健康的な生活を支える基本です。
十分な睡眠を確保すること、バランスのよい食事を心がけること、そして自分の体力や状態に合った運動を継続すること。
こうした習慣は、体力や身体機能の維持、生活の質の向上を目指すうえで欠かせません。
ここで大切なのは、単に患者様へ「よく眠りましょう」「食事に気をつけましょう」「運動しましょう」と伝えるだけでは、なかなか行動にはつながらないということです。具体的に何をすればよいのか、どのように習慣化すればよいのか。
そして、取り組みを続けることで自分の身体にどのような変化が起こっているのか。
それらを一緒に考え、実践を支え、振り返る仕組みがあってこそ、患者様の日常は少しずつ変わっていきます。
例えば、運動であれば、患者様の体力や身体の状態に合わせた歩行や筋力トレーニングを提案し、無理なく続けられる方法を一緒に考える。睡眠や食事についても、日々の生活習慣を振り返り、改善できることから取り組んでいただく。定期的に身体の状態を確認し、できるようになったことや変化を患者様と共有する。
こうした支援を積み重ねることで、接骨院は施術を受けるだけの場所から、日々の健康づくりを相談できる場所へと進化していくことができます。
私たちが目指したいのは、接骨院が地域の「若返りステーション」となる未来です。
ここでいう若返りとは、年齢そのものを巻き戻すという意味ではありません。
年齢を重ねても、自分の足で歩き、趣味を楽しみ、人と交流し、自分らしい生活を送り続けられるようにすること。
そのために必要な身体づくりや生活習慣の改善を、身近な地域で継続的に支える拠点となることです。
接骨院には、身体の状態を確認し、患者様の悩みに耳を傾け、継続的に関わってきた経験があります。地域に根ざし、患者様との信頼関係を築いてきた先生方だからこそ、健康づくりを始めるきっかけを提供できるのではないでしょうか。
そして、この取り組みは、社会貢献だけでなく、院の経営にも新たな可能性をもたらします。
これまでのように、痛みが出たときに来院していただくことだけを考えるのではなく、健康を維持するための運動指導や生活習慣の相談、グループで取り組む健康教室など、患者様のニーズに応じたサービスを組み立てていく。
もちろん、保険施術と自費サービスの区分を明確にし、内容や料金を丁寧に説明したうえで提供することが前提となりますが、新たなサービスを通じて収益の柱を増やすことも考えられます。
例えば、院内での個別サポートに加えて、地域の方々が一緒に運動を続けるコミュニティを形成することも一つの方法です。一人では続けにくい運動も、仲間がいて、定期的に集まる機会があり、先生が見守ってくれる環境があれば、継続するきっかけが生まれます。地域の健康づくりを通じて新たな接点が生まれれば、これまで院を利用したことのない方に知っていただく機会にもなります。
また、健康づくりを目的とした継続的なサービスは、患者様にとって院と関わり続ける理由にもなります。
「痛みがなくなったから終わり」ではなく、「健康で元気に過ごすために、これからも相談したい」と感じていただける関係を築くことができるのです。
これは、患者様を無理に引き留めることとは違います。
患者様が必要性を理解し、自らの意思で健康づくりを続けたいと思える価値を提供することです。
その価値に対して適切な対価をいただくことができれば、売上の拡大だけでなく、価格競争に依存しない収益構造や利益の創出にもつながる可能性があります。
もちろん、睡眠や食事、運動について指導する際には、根拠のある情報に基づき、患者様それぞれの体力や健康状態に配慮する必要があります。施術所だけで対応しようとするのではなく、医療的な判断が必要な場合には医療機関へつなぐなど、専門家との連携も重要です。こうした姿勢が、地域からの信頼をさらに高めることにもつながるでしょう。
これからの時代、接骨院に求められる価値は、施術の技術だけではありません。
施術を通じて培ってきた専門性や信頼関係を生かし、患者様が日常生活の中で健康を維持し、より充実した人生を送るための支援をどこまで提供できるか。そこに、これからの院経営を進化させる可能性があると考えています。
業界を取り巻く環境が厳しくなる中で、これまでと同じ方法を続けるだけでは、経営を維持することが難しい場面も増えていくでしょう。しかし、視点を変えれば、地域には健康であり続けたい、元気に年齢を重ねたいという多くのニーズが存在しています。
そのニーズに応えるために、接骨院ができることは、まだまだあるはずです。
患者様の痛みに向き合うことから、患者様の未来の健康に向き合うことへ。
地域の方々が気軽に健康について相談でき、身体を動かすきっかけを得られ、仲間と一緒に健康づくりを続けられる。
そんな「若返りステーション」が各地に広がっていけば、接骨院は経営面でも、社会的な役割という面でも、まだまだ進化できると私は考えています。
アトラ請求サービスでは、会員の先生方が制度に適切に対応することはもちろん、これからの時代に患者様や地域から選ばれ続ける院づくりを実現できるよう、引き続き情報提供と支援に取り組んでまいります。
厳しい環境だからこそ、従来の枠にとらわれず、新しい可能性に目を向ける。
その一歩が、先生方の院の未来を変えるきっかけとなれば幸いです。