
「人は血管とともに老いる」という言葉を聞いたことがある先生もいらっしゃるでしょう。私たちの健康寿命を左右する上で、血管の柔軟性を保つことは非常に重要です。血管がしなやかであれば、全身に血液がスムーズに巡り、酸素や栄養が細胞の隅々まで行き届きやすくなります。これにより、疲労回復、冷えやむくみの改善、さらには生活習慣病の予防にも繋がるのです。
今回は、この血管の若々しさを保つ上で重要な役割を果たす二つのアミノ酸、「アルギニン」と「シトルリン」に焦点を当て、その働きと、患者さまへの健康アドバイスにどう活かせるかについて解説します。
〇血管の柔軟性を司る「一酸化窒素(NO)」の重要性
血管の柔軟性を保つ鍵となるのが、体内で作られる「一酸化窒素(NO)」です。NOには血管を広げ、血流をスムーズにする働きがあります。これにより、動脈硬化の緩和や、運動パフォーマンスの向上、冷えの改善など、様々な健康効果が期待されていますが、NOの産生は加齢とともに減少していく傾向にあります。そこで注目されるのが、NOの産生を助けるアルギニンとシトルリンなのです。
〇アルギニンとシトルリンの相乗効果
アルギニンは、体内でNOを直接作り出すアミノ酸です。肉、魚、豆類、ナッツなどに多く含まれており、血流の促進や成長ホルモンの分泌促進、免疫力向上といった効果が期待されています。
一方、シトルリンは、体内でアルギニンに変換されるアミノ酸です。スイカやメロンなどのウリ科の植物に多く含まれていますが、食品から十分な量を摂取するのは難しいとされています。シトルリンは血管拡張作用を持つNOの産生を促すだけでなく、アンモニアの解毒作用にも関わります。
この二つのアミノ酸は、体内で互いに関連し合いながらNOの産生を効率的に高めます。シトルリンを摂取することで、体内のアルギニン濃度も高まり、より多くのNOが作られるという相乗効果が期待できるのです。これにより、血管はしなやかさを保ち、全身の血流改善に繋がります。
〇NOを増やすための賢い選択
血管の柔軟性を保つために、アルギニンやシトルリンの摂取は有効ですが、その方法には注意が必要です。
例えば、近年市場に出回っている「塗るタイプの一酸化窒素を謳う製品」については、その効果が科学的に十分に証明されているとは言えません。安易な利用は避け、エビデンスに基づいた方法を選ぶことが大切です。
また、エナジードリンクにアルギニンが含まれていることがあります。これによってNOの生成が促進され、血管拡張による血流改善効果が期待できるのは事実です。しかし、エナジードリンクの多くは大量の砂糖を含んでおり、過剰摂取は消化器系への悪影響に加え、血糖値の急激な上昇や体重増加など、健康リスクを伴う可能性があります。アルギニンやシトルリンを摂取するのであれば、バランスの取れた食事や、信頼できるサプリメントを選ぶなど、成分と量に注意した賢い選択が必要です。
〇「血管の若返り」をサポートするために
先生方の接骨院には、肩こりや腰痛、むくみ、冷えなど、血流の悪さが原因となる症状を訴える患者さまが多く来院されることでしょう。これらの症状の根本には、血管の柔軟性の低下、すなわち「血管の老化」が潜んでいる可能性があります。
日々の施術に加え、アルギニンやシトルリンの重要性をお伝えし、正しい知識に基づいた食生活のアドバイスや、必要に応じて毛細血管の観察を提案することは、患者さまの根本的な健康改善、ひいては健康寿命の延伸に大きく貢献します。バランスの取れた食生活の重要性を伝える際に、これらのアミノ酸の働きに触れる等で、患者さまの理解を深めることができるでしょう。
「人は血管とともに老いる」という言葉を忘れず、先生方が患者さまの「血管の若返り」をサポートすることで、より活き活きとした毎日を送るお手伝いができます。